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以前、月刊誌の編集長に就いていた時代、ある新型車の発表会に招待された。日産がリリースするアッパーミドルのセダンタイプ。ティアナという名を与えられたその車は、モダンリビングをコンセプトとして、スタイリッシュな雰囲気を演出していた。
正直なところ、あまり興味もなく期待もせずに会場に向かったのだった。というのは、この手の車の多くが、目につく装備やインテリアには金をかけるものの、100qも走れば腰が疼いてくるようなチープなシートを纏っていることが多かったからである。
メディア関係者でごった返す会場で、どうにかこうにか展示車に寄り、覗き込むと、そこにはフラットで幅広なシートがあった。サポート重視、走り重視のバケットタイプの対極のような出で立ちで、「こりゃ、今度は見た目重視か…」などと思わず呟いてしまったのだった。
が、ドアを開け、腰を下ろしたときの驚きと言ったら…。
腰を下ろす。柔らかい。ふっと体が沈む。
しかし、次の瞬間にシート地に妙なコシが生まれて…。
テンピュールの枕を固くしたような不思議なサポート感に包まれたのである。
なんじゃ、こりゃ。
鳩が豆鉄砲状態である。
いい。とんでもなくいい。想像していたものとまったく違う感触。
理屈抜きで、身体が喜んでいる。
しかし、この感じ、どこかで味わった記憶がある。
会場の雑踏の中で拙い記憶をたどった先に思い出したのは…。
かつてのフランス車の味わいだった。
ドイツなど多くの欧州車が硬めのシートで腰の負担やサポート性を高めようとしたのに対して、かつてのフランス車はソフトでありながら疲労の少ないシートを志向していた。シトロエンあたりは長距離の航空機シートと自社シートを関連づけて広告展開をしていたほどである。しかしこれがなかなかやっかいで、ただフカフカにしただけではあっという間に腰が悲鳴を上げる。アメリカ車や日本の高級セダンに多かったタイプだ。
たしかにハードなシートはサポート性もいいだろうし、走っていて楽には楽だ。しかし、普段、町なかで家族を乗せてお買い物…なんてときには、もう少しソフトなほうが喜ばれるんじゃないだろうか…。ガチガチのバケットシートじゃ…ねぇ。
今やフランスの車も依然に比べればハードな触感のシートが多くなってしまったけれど、しかし会場で脳裏をかすめたのは、“ソフトであって疲れない…。柔らかいのにコシがある” 私自身も長く愛用していたかつてのフランス車のそんなシートだった。
こんな快適なシートを実現できるようになった陰には、その少し前にフランスの自動車会社からやってきたゴーン社長の存在も影響しているのかも…なんて下衆のかんぐりも浮かんでしまうのだった。
いてもたってもいられず、取材用に借り出すことにした。設定したコースは初秋の週末の房総半島一周。厳しい渋滞も、細いクネクネ道も、まっすぐな海岸沿いの観光道路も、漁村を抜ける古道も、高速道も、アップダウンもあるコースだ。
予想したとおりだった。最初に感じたソフトなタッチは走行中も変わることがなく、たえず優しい感触で身体を包んでくれた。急加速したりコーナーで加重が変わっても、沈み込み過ぎて、身体の姿勢が変化したりその変化を支えるためにどこかの筋肉に負荷がかかることは皆無だった。その一方で、1回の信号で2,3台しか動かない渋滞路でも快適。このシートを外して、編集部の椅子と交換したいと思ったほどだ。
銚子から九十九里、そして外房から南房、内房、東京湾へと1日走り続け、途中の片貝ではハゼと短時間戯れたりしたりもした。しかし、身体のどこにも疲労を感じなかったし、その気になればそのまま700q先の八郎潟にだって行けそうだった(本当に…)。
日本には椅子の文化がなかったからねぇ…なんて話をよく聞いたが、このティアナのシートを知ったときに、とても誇らしく思ったものである。
で、そんなティアナがフルモデルチェンジをすると聞き、発表会に出かけてみた。「おもてなし」がコンセプトだそうで、前モデルの時のような強烈なインパクトはないが、落ち着いた大人向けのセダンに仕上がっていた。前席の解放感は前モデルのほうが上回っていた気がするが、全体的な質感は明らかに向上している。メータ類を含めた操作性もアップしていた。“ゆらぎ”を取り入れたというインテリアデザインも品があって、好感が持てる。前モデルで好評だった助手席のパワーオットマンも踏襲。奥様に喜ばれること請け合いだ。
…が、そんなことは私にとってどうでもよくて(失礼!)、あのシートがどうなったか…ただただ、それが気になる。
で、座ってみる。
硬い…。えっ?
瞬間、そんな印象を受けたが、それが表地素材の違いによるものとすぐに分かった。
体重負荷に対する感触は同じような印象。ホッとする。
わざと身体を揺すってみたり、腰を上下させたりしても合格。
“あの感じ”に近い。
スゥッと入って、ググッと固さを感じて、ガシっとサポート感を受ける…。ま、こんな感じです。もちろん、新しいパワーユニットや、足回りがこのシートに組み合わされるわけだから、運転してみないことには結論はでないのだけれども、今から楽しみでならない。
一刻も早くあの時と同じコースを走ってみたい…そんなことを想いながら会場を後にしたのだった。
セダンで釣り…これって、なかなかお洒落だと思います。
2008年06月30日 16:15
オフィシャルブログでおなじみの三浦氏による、釣りあり、観光あり、グルメありのよくばり釣行記「ひねもすのたりフィッシング」好評連載中! |